In a Grove

・炸裂
冷凍庫の中で焼酎の瓶が炸裂し、その後凍りついた。ガラスの破片が庫内で屹立しており、氷河期が再来して滅亡寸前の地球の表面みたいになっている。かなり危なっかしい。中身は水だった。冷やした水が飲みたいと思って、丁度空いた瓶を冷凍庫で冷やしている間に、寝てしまったのだった。水は氷になる間に膨張する。固体化によって膨張する物質は水くらいのものだそうだ。瓶を内側から割るほどとは恐れ入った。ほとんど満杯に詰めたのもいけなかったと思う。庫内に張り付いたガラスの破片と氷はそのままでは危なくて除去できないので、熱湯を沸かして霧吹きで噴射して対処したいと思ってるが、面倒なので半年くらいは何もしないと思う。「星の終わり」という題の現代アートとして保存する。

・修理
壊れた携帯の修理を依頼にドコモショップへ行った。SIMを認識しなくなったので、iPhoneが悪いのか、SIMカードが悪いのか、前者だとかなり面倒になるので覚悟していったが、SIMカードの交換で済んだ。契約は中学の頃から更新していないので、未だ親の名義である。SIMの交換に際しては名義人の承諾が必要、ということで、僕が母の名前を書類に記載しショップの店員がPHSで連絡をしてくれた。諸々の説明を手際よく完了した店員は「…ということで、奥様の承諾が必要なのですが、よろしいですか」と話をまとめて、生きているのが恥ずかしかった。

・DEOCO
「女の子の匂いがします!」と衝撃的なポップのついたボディーソープがあった。日頃から女の子になってみたいと思っているので、とりあえず形から入ってみることにした。そういえば何日か前にネットで記事を読んだ気がして、購入後に調べてみると、DEOCOおじさんというワードがヒットした。女の子の匂いがするので、おじさんの間で爆売れしているらしい。僕はがっかりしてしまった。おっさん向けのポップにまんまと引っ掛かり、おっさん向けのブームにまんまと乗っかってしまったのだ。身から出たおっさんである。おっさんを洗い流すために、その日はそのボディーソープを使って全身をくまなく洗った。いい匂いだけど、僕の求めていたような女の子の匂いではない。ますますがっかりして、その日は普通に寝たのだが、翌朝寝汗で張り付いた下着を胸元でパタパタしていたら「お?」と思った。「お?」と思ったことだけ書いておきます。

・藪の中
芥川龍之介の「藪の中」を久しぶりに読んだ。一体の男の死体が竹やぶで見つかり、一体誰が殺したのかを云々する裁判の話だ。検非違使とか出てくるので、平安時代くらい。登場人物が複数出てきて、各々が証言するのだが、それぞれの証言の間では矛盾が生じており、一体誰がなにをしたのか分からない、という筋書きだ。真相は藪の中、という言い回しはこの作品が元らしい。作品としてのオチ、というか真相はちゃんと用意されていて、犯人は最初に証言している死体の第一発見者の木こりである。木こりは、死体を見つけたのではなく、死にかけの男を見つけ、その胸に刺さっている小太刀を抜いている。これが致命傷となったことが、霊媒師を通じた死人の男の証言で示唆されている。しかし、それ以外にあった強姦や切合の顛末など、実際にあった事実は一切わからない。殺人の問題とは別に発生していた、倫理・道徳上の裏切り行為にあたっては、証言の食い違いがあり、想定され得る事実が作品の中に用意されていない。こちらを主題に据えようとしていることは、多襄丸の発言の中で触れられている。個人的には、殺された男の発言だけが本当で(嘘をつく理由が思い当たらないから)、それ以外の当事者二人については、なんらかの嘘を付きたい理由があり、それを隠すための嘘なのだと考える。結果が分かっても、なお過程を考えなければ納得できないという習性については、仕事に活かして色々と考えようと思った。