なぜか今日は

その日はなし崩し的に人の家に泊まり、色々な約束を破った日だった。朝起きるとこたつの中にいて、背中にじっとりと汗をかいていた。部屋には誰もいなくて、テーブルの上に手紙の添えられた合鍵が置いてあった。昨夜のことが申し訳なくなったけど、謝罪文を書くほど気が利いてもいなかった。ベランダで煙草に火をつけて、昨日開けたビール缶に灰を落とした。ビルの合間から青空が覗いて、太陽の光が目の奥を刺した。喧騒は遠く聞こえているのに、誰もいない部屋は物寂しかった。一人でに傷付くには丁度いい午後の時間だった。行く宛も、すべきこともないけれど、どこかに行かなければならない。僕が部屋の置物であることは許されていなくて、合鍵は必ずポストに投函されていなければならなかった。手紙の筆致はなで肩で、書かれた文字が控えめに僕を追い出そうとしている。寝る前に見る夢のこととか、すべて偽りのない嘘のこととか、昨日の意味のない話のことを思い出した。守れない約束とか、優しい暴力とか、泣きながらする笑い話ばかりだった。そういう時間が後で何よりかけがえないものに思えてくることを、その時僕はまだ知らなくて、終電が終わったらまたこの家に来れるのかもしれないと、そんな風に思っていた。