海へ行った。春がぼんやりと波を白ませていた。缶ビールは生ぬるくなっていた。砂浜に一歩一歩足跡を残して、ふと振り返ると、もう自分の足跡の行方は分からなくなっていた。どこから来てどこへゆくのか、薄ら寒い予感は季節の隙間に滾々と湧いてくる。繰り返すことはすっかりうまくなってしまった。怒っても悲しんでも、時間が経てばどうでもよくなってしまうので、降って湧いた感情を飲み下して大人しく横になることを覚えてから、新鮮な意識なんか持ちようがなかった。考えることは沢山あった。すべきことも沢山あった。惚けたり宥めすかしたりしてやり過ごした後に立ち並んだ土壙墓の匂いは、小さな頃、潮干狩りで捲り返した砂浜の匂いにそっくりだった。