ペデストリアンデッキってなんだ

ペデストリアンデッキを建設中です」

仕事が終わってうっきうきの23時にそんな立て看板を見つけた。青と白のコントラストで、一見道路標識のような佇まいで道端をデーンと占領していた。「ペデストリアンデッキ」という無駄に長いカタカナ語のため、普通の立て看板よりも横にデカい。一際目立つので、道すがら行く人来る人皆が「ああ、ペデストリアンデッキを建設しているのか」と納得することができる。

「皆様にはご不便をおかけして申し訳ございません。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます」

そのような文言が、立て看板に書かれている。

ペデストリアンデッキを建設中です。皆様にはご不便をおかけして申し訳ございません。ご理解のほどよろしくお願い申しあげます。」

いやいや別に大した不便は掛けられていないですよ。周り道をしなくちゃならない、なんてこともないし。工事中だけど、道の舗装がボコボコで歩きづらいなんてこともない。ただ、少しだけ道幅が狭くなって、網掛けフェンスで仕切られた場所に建設資材がちょこんと置かれているくらいのものです。なんならこの道もほとんど通らないので。就業後の解放感にかまけてショッピングモールを練り歩いて、たまたま通っただけですので。

でも、なんでですかね。いや、そうですよね。こんな歯に物の挟まったような言い方されたら、なにを考えてるんですか?って気にされてしまいますよね。私も本当はこういう言い方が嫌いなんです。無駄に他人の心をざわつかせるだけで、なんのメリットもない。むしろ普段から、はっきりしない物言いは自分の損になると言い聞かせているような性分で、竹を割ったような気位で過ごしていたいと思うんですけど。


思っちゃったんですよね。そこ大事なの?って。
ペデストリアンデッキを……」って。


まず、よく知らないわけじゃないですか。ペデストリアンデッキを。まだデッキなら分かるんですけど。船のあの部分のことですよね。階段とか上って、船の先端のほうに向かった時の、踊り場みたいな場所。でも具体的にデッキってどこからどこまでって聞かれたら多分わかんないですね。しかも船の一部だと思ってたら、道端で堂々と「建設中です」って言われて、ちょっと戸惑うじゃないですか。あれ?私のデッキの概念間違ってる…?って思うじゃないですか。しかも「ペデストリアン」って言われたら、もう帰ってこれない。(どこから?)
おそらく「ペデストル」風味な「デッキ」になると思うんですけど。ペデストル人とか、ペデストル国とか聞いたことないですし。もしかすると南部ゴールドストーン定理みたいに、考案者の名前がそのままついてるかもしれない。つまり、ペデスさんの考案した「トリアンデッキ」かもしれない。

あと、言い方の順番みたいなところもある。なにを作ってるのかさほど興味はないのに、頭から一文勢いよく「ペデストリアンデッキを建設中です」から入られたら、おっそうだな……ってリアクションにどうしてもなっちゃうじゃないですか。よく分からない単語を紋所のように振りかざして、「申し訳ねえけどよろしくな!」みたいなニュアンス、感じざるを得ないじゃないですか。「ちっす!ペデストリアンデッキなんで勘弁してください!」みたいな。むしろ、「俺ら建設しちゃってんすよ……。そうそう、あれ。ご存知、ペデストリアンデッキ」の感じまである。

ペデストリアンデッキってなんだ。。。